スリランカ イダルガセナ茶園を訪問して -フェアトレードの成功例- 松木傑

1992年夏の教会の全国総会で最初にイダルガセナのリードバス ケット入りの紅茶を販売しました。そして翌年の夏、イダルガセナ茶園を訪問して以来、13年振りに茶園を訪問して、その発展振りに感銘を受けるとともに、皆様がこの紅茶を好んで購入し続けてくださった事の意味を報告できますことを喜んでいます。

13年前の課題は、お茶園の労働者の長屋にトイレを設置することでした。有機栽培のコンポストも十分に整備されているとは思えませんでした。今回の訪問でその様子は一変していました。まず、お茶園の入口が、参加するお茶園が増えたために移動して別のところに作られていました。完備された有機栽培のための施設に加えて、保育園6校、診療所3箇所、コンピューター学校などができており、医者、看護婦、保育士など70名以上のスタッフが、お茶園の住民2300人のために働いています。お茶園全体が整い清潔で、皆さん明るく、自信に満ちていました。

年間約140トン生産される紅茶の60%が、ドイツのフェアトレード団体、GEPAや私たちに、フェアトレード条件で販売されるために、労働者への通常の支払いに加えて、社会発展のための基金を予 算化することができます。昨年の実績は約1500万円でした。

お茶園の労働者の月収が6000円前後ですので、大変な金額です。私たちが継続して購入することにより、毎年、それだけの資金が使えることになり、現在は、長屋から、個人住宅をもてるように資金援助と貸付で労働者を支援しています。

私が今回、一番痛感し教えられましたのは、自分たちが参加して、状況を良くしていくなかで労働者や従業員が持つことができるようになった精神的な自信にあるように思います。社会開発の活動は、ジョイントボディーというお茶園の労働者の代表と管理側のお茶園のマネージャーや会社のスタッフ側で構成され、毎月議論を進めながら実行しています。

発展途上国の人たちの多くは、その日暮らしの状況にあり、毎日の暮らしに追われています。その中で共に地域のこと、子供の教育のこと、健康のことなどを考えて、計画を立て自分たちで実行できることは、何よりも生きる自信を持つことになり、将来への希望を描けるのです。

イダルガセナは、例外的な成功例ともいえます。その恩恵を受ける人たちが広がるためには、フェアトレードのますますの普及が必要です。

有機紅茶 イダルガセナのコミュニティー活動 )

わかちあいプロジェクトで通信販売しいる有機栽培&フェアトレード紅茶ウバは、そのリードパッケージとともに、継続的にお客様よりご愛顧いただいております。2006年8月、このウバ紅茶を生産しているスリランカのイダルガセナ紅茶園を訪問し、マネージャーや生産者と対話する機会がありました。この訪問を通じ て、フェアトレードを基盤としたコミュニティー活動の成果を実感することができましたので、次のとおり報告します。

1 イダルガセナ紅茶園の背景
一般的に、スリランカの紅茶生産者は、植民地時代に南インドから連れてこられたタミルの人たちがその多くを占めています。紅茶園管理者と生産者という絶対的な主従関係を背景に、生産者であるタミルの人たちの労働・生活環境は劣悪な状態が続いています。紅茶園スタッフなどの話しによると、生産者側の人たちは長年の抑圧状況から、命令されることが当たり前という固定的な意識にとらわれているそうです。
そのような中、Stassen NaturalFoods(以下スタッセン)の取締役であるザキ氏が、生産者の生活改善・環境改善を目指して80年代中ごろから実験的に開始したのがイダルガセナ紅茶園の始まりです。イダルガセナは、1987年には有機紅茶園としての認証を受けました。そして、フェアトレードのラベル組織(現行でいうFairtrade Labelling Organizations (FLO))が設立する以前から、独自にフェアトレードと同様のコンセプトに基づいて、ビジネス利益をコミュニティー活動へと還元させていました。このような取り組みが実践できたのは、ザキ氏の個人的な熱意はもちろん、同時に、GEPA(独のフェアトレード販売団体)との間で継続的な取引が保証されるという協力関係を構築できたことにあるでしょう。

2 イダルガセナ紅茶園の概要
紅茶園人口は家族を含めて2,372人(482世帯)で、その内労働人口は1,066人です。約95%がタミルの人たちです。昨年の生産高は136,811kgで、その8割がグリーンティーです(ヨーロッパではグリーンティーの人気が高いため)。紅茶園の土地は、主に個人所有者から、もしくは、従来のプランテーションから引き継いだ土地については国から借り受け管理しています。
イダルガセナの特徴を簡単に述べると、まず、有機農法およびバイオダイナミック農法を実践している点が挙げられます。自然の力に委ね、環境および人間に対する影響を考慮した良品を追及す姿勢は、熱心にコンポストの生成方法を説明してくれるスタッフや、整理整頓された事務所からも伝わってきました。
また、従来の農法に比べて手間のかかる有機農法は、生産者に労働機会を提供するという非常に大きな意味も有しています。従来の紅茶園では1ヶ月に25日の労働を行うことが難しく、それだけ収入も確保できないのに比べ、有機農法のイダルガセナでは、25日労働の確保をはじめ、収穫高や祝日労働に応じた追加収入を得ることが可能です。
次に、コミュニティー活動に力を入れている点を特筆すべきでしょう。前述のとおり、イダルガセナのそもそもの設立ビジョンは生産者の生活改善にあります。スタッセンがフェアな価格で紅茶を第一次的に購入し、さらにGEPAを中心としたヨーロッパ市場に有機・フェアトレード紅茶として提供されるという流れの中で、スタッセンは、その利益の一部をコミュニティー基金として紅茶園に還元します。それでは、次に、どのような活動が行われているかご紹介します。

3 コミュニティー活動の内容1992年から開始されたコミュニティー
活動ですが、昨年度の実績は14,182,678ルピ(≒円)の規模です(大体、生産者月給が6,000-7,000ルピ、スタッフ月給が10,000ルピ程度)。主な活動として、次のものがあります。
●幼稚園・保育園
紅茶園のフィールド労働者は女性の方が多いですが、そのため、赤ん坊の面倒を子供に見させるなどし、児童の就学機会が奪われるという問題が生じます。そこで、イダルガセナでは、幼稚園だけでなく保育園も併設しています。現在、ロケーション毎にこのような施設が6つありますが、幼児教育だけでなく、保護者の保健衛生教育の場としても活用されています。また、幼稚園等の先生は、紅茶園の生産者の家庭から選ばれてトレーニングを受けた女性がなっています。女性に対して雇用・教育機会を提供している点でも意味があります。
●コンピュータースクール
PC10台程度の小さな学校ですが、就職実績として23名を会社や役所などに送り出しています。一般のコンピュータースクールに比べて格安な費用で教育機会を提供することがどれほど大きな可能性を持っているのか、紅茶園マネージャーの秘書のニシャンティさんが教えてくれました。彼女は、やはり隣接する紅茶園の生産者の家庭で育った方ですが、家族の理解のもとで高校に進学した後(そもそも高校に進学する人数が少ない)、イダルガセナのコンピュータースクールで学び、その能力が認められて秘書のポストを得ることができました。「このコンピュータースクールが無かったら、勉強も続けられなかったし、職を得ることも無かった。だから、自分はそのお返しに紅茶園のために働きたいのだ」との言葉が印象的でした。
●新住居の提供
半額負担かつ長期・無利息返済という条件で、新しい住居を生産者に提供しています。生産者は返済後、住居および土地の所有権を取得することができます(予め、紅茶園が個人所有者から土地を買い受けている)。一般的なタイプとしては、2部屋・2寝室・キッチン・トイレ・浴場といった住居で、現在まで150棟を設置してきました。従来型の紅茶園から移住してきた方にインタビューしたところ、住居を手にできたことを最大のメリットとして挙げていました。
住居の庭では、追加収入を得るため、野菜を作ったり、鶏を飼ったりする家庭が多く見られます。生産者の家族にインタビューした結果、多くの共通の関心事は、この追加収入についてであることが分かりました。イダルガセナの紅茶園は、他の紅茶園に比べて収入を得る機会は確保されていますが、それでも、十分な生活を送るにはさらなる収入を必要としていることも事実です。
●住居ユニットの修繕
上述したような半額負担の住居に全ての家庭が入れるわけではありません。
従来型の住居ユニット(長屋のよう)で生活する生産者も多くいます。その場合でも、各家族にトイレを設置し、共同浴場の整備、屋根の修繕などの改善活動を行っています。
●医療センター
専属の医師1名、看護士1名、カウンセラー2名で3箇所のセンターを中心に、看護士やカウンセラーが各ロケーションを巡回しています。
看護士のリタさんは、シンハラ出身の女性ですが、他の紅茶園でも働いた経験があり、イダルガセナの違いを、その医療サービスだけでなく、自由な雰囲気にある、と指摘していました。また、自身も紅茶園の近くで育ってきたので、(タミルの人が多い)紅茶園のために働きたいと思うのは自然、と教えてくれました。

4 今後のうごき
このようにコミュニティー活動が充実していることから、隣接する紅茶園の生産者からは、イダルガセナ紅茶園に吸収してもらいたがっているとの声を多く聞きましたが、イダルガセナのマネージャーであるニャーニャセカランさんは、できるだけその方向で拡大させていく希望を示していました。現在は、ヨーロッパを中心としたマーケットが確保されており、供給より需要の方が多いため、さし当たって紅茶園の管理・維持に問題はありません。しかし、このプログラムを隣接へと拡大していき、さらに、スタッセンの支援関係から完全に自立することも視野に入れると、マーケットを拡大させる必要があります。そのためにも、何より重要とマネージャーが考えているのは、品質で
す。最近、品質に対するインセンティブシステム(収穫高における良品の割合に応じて奨励金を付与する)を始めましたが、このような施策を通じて、生産者の品質に対する意識を高めることができるのでしょう。

5 最後に
看護士リタさんがイダルガセナを「自由な雰囲気」と表現していましたが、これは、スタッフ・生産者の多くが共有している感覚だと思います。幼稚園の先生であるスバシニさんは、「他の紅茶園では、マネージャーと生産者が直接話したりしない。」と言って、イダルガセナがそうではないことを一生懸命説明しようとしてくれました。
実際に、私もジョイントボディー(生産者とマネジメントの両者から成る機関で、コミュニティー活動の内容を決定する)のミーティングに参加しましたが、男女問わず、各ロケーションの問題点や意見を活発に言い合っていました。マネージャーに対して萎縮するという様子は観察できませんでした。このようなスムーズな労使関係が、イダルガセナの背骨となって紅茶生産もコミュニティー活動も支えているのだと感じました。
なぜこのような関係やコミュニティーが育ってきたのか、ザキ氏やニャーニャーさんといった指導者側の個人的な信念や人間性が要因であることは確かです。
しかし、それを支えているのは、やはり、彼らに対する理解と協力関係であることも間違いないことです。